安全対策講座
2011年12月
在広州日本国総領事館
1.犯罪被害に遭わないためには
2.犯罪行為に巻き込まれないためには~特に注意を要するケース
3.交通事故に遭わないためには
4.感染症について
1.犯罪被害に遭わないためには
(1)在留邦人の犯罪被害の傾向
2010年、当館に寄せられた日本人の方からの犯罪被害相談は125件(皆様から所定の項目に沿ってある程度具体的にご相談のあった内容についてのみを集計したもの)で、その多くはスリ、置き引き、ひったくりといった窃盗犯罪ですが、過去には強盗事件や、経済案件に端を発する誘拐事件や傷害事件等の凶悪犯罪も発生しています。
(2)犯罪防止・予防対策
① バッグ等は放置せず常に身の回りに置き、常に意識をするよう心掛ける。
~食事や買物、商談中はどうしても注意力が散漫になりがちです。周囲に多数の友人・知人が居る中で被害に遭われたケースも多数あります。自分の荷物は自分で管理し、貴重品は身につけておくようにしましょう。また、子供のスリ、置き引きにも注意してください。
② 現金、旅券等の貴重品はできるだけ身に付ける。財布等をズボンの後ろポケットに入れない。特に混雑する場所では取出口が直視できるように、バッグ等を身体の前面で持つ。
~背中のバッグのファスナーを開けられたり、刃物で切り裂かれたりして、被害に遭うケースもあります。現地の方がリュックサック等を身体の前面に掛けているのを見掛けると思いますが、これも有効な防犯対策の一つであると言えます。
③ バッグは手提げ式を避け、ひったくりが困難なように、肩掛け式のものを袈裟懸けにする。荷物は道路側にさらさず、できるだけオートバイ等と対面する側の歩道を歩く。
~夜間、背後から近寄って来たオートバイによる被害が大半です。なお、万が一荷物を奪われそうになった場合には、二次被害(バッグを離さないことで引きずられて怪我を負う)防止のため、殊更に抵抗せず、場合によって自ら荷物を手離すようにしてください。
④ 混雑する場所では、できるだけ目立たない服装を心掛け、一見して外国人とわかるような格好は避ける。大金は持ち歩かない。多額の現金を支払う時は、周囲の者に気付かれないように工夫する。
~犯人はどこで物色しているか判りません。「外国人(日本人)=お金持ち」と見られます。声高に日本語で会話することも、場所によっては注意を要します。
⑤ 短時間でも駐車中の車内に貴重品、荷物は置かない。また、走行中も施錠する。
~高速道路の休憩所やレストランの駐車場等において、車上狙いが多発しています。過去には、渋滞中に近寄って来た犯人による強盗被害も発生しています。
⑥ 夜間の一人歩きは避ける。外国人が立ち入らない場所へはできるだけ行かない。
~やむを得ず立ち入る場合には、事情を知っている者に同行してもらうようにしてください。「君子危うきに近寄らず」こそ、最大の防犯対策の一つです。
⑦ 見知らぬ相手、特に馴れ馴れしく日本語で話しかけてくる者がいても、容易に信用せず、誘いには乗らない。また現金や貴重品等が入ったバッグ類を預けない。
~連れて行かれた先で強盗に遭うケースや、現金を騙し取られたりするケースも報告されています。なお、強盗に遭った場合には、相手は凶器を所持している場合が多いので、下手に抵抗しないようにしてください。
⑧ ホテル・マンション内に見知らぬ人間が訪ねて来た場合は、ドアを開けず施設関係者にまず連絡する。
~滞在先はセキュリティのしっかりしたところを選びましょう。
2.犯罪行為に巻き込まれないためには~特に注意を要するケース
(1)規制薬物・骨董品
犯罪行為に巻き込まれるケースとして、知人や初対面の人から荷物の運搬を持ち掛けられて安易にこれに応じてしまい、空港等の手荷物検査で当該荷物の中に麻薬や文化財が入っていることが判明し、法禁物所持や密輸出の疑いにより検挙される事例が発生しています。これらの犯罪はいずれも日本に比べ刑罰が重く、また、日本国内では処罰対象となっていないような行為に対しても、死刑や無期懲役といった重い刑罰が科される場合もあるので、不用意に物品運搬を引き受けることは、絶対避けて下さい。
① 規制薬物(覚せい剤、麻薬、MDMA、大麻、LSD等)
近年、中国国内では、規制薬物の流通、使用が急速な広がりをみせており、特に若年層による使用の拡大が顕著であることから、公安・司法機関は徹底的な検挙と厳罰をもって対処する方針をとっています。製造、所持、運搬、譲渡、輸出入等に対しては、死刑又は無期懲役を含む極めて重い刑が法定されています(現在までに4人の日本人が麻薬密輸の罪で死刑判決を受けています)。
なお、やせ薬等と称して覚醒剤を売りつけられ、覚せい剤と知らずに持ち出そうとして検挙されたと弁解する例もあるようですが、仮にそれが真相だったとしても、売主が姿を消していれば、裏付けが不可能であり、結局、捜査機関や裁判所で弁解を受け入れて貰うことは至難であると思われます。
② 骨董品等
2007年6月5日、中国国家文物局は、中国の文化財の海外持ち出しに関する新しい基準を施行することを発表しました。
○ 新基準では、1911年以前に生産、制作された文化財は、全て海外持ち出しが禁止されました。
○ 歴史的、芸術的、科学的価値を有する文化財で、1949年以前に生産、制作された文化財については、原則として海外持ち出しが禁止されました。
○ 少数民族の代表的な文化財で、1966年以前に生産、制作された文化財は、海外持ち出しが禁止されました。
(2)買春行為
買春行為は、10日以上15日以下の拘留に加え、5、000元以下の罰金を科され、場合によっては国外退去となり、一定期間(原則として5年以内)入国禁止となる場合もあります。中国では、いわゆる売春の客となる場合のみならず、対価を払って性的サービスを受ける行為は、広く買春として処罰されるので、いかがわしいマッサージ店やカラオケ店には立ち入らないなど、特に注意が必要です。
また、売春のあっせんや紹介等も犯罪とされていますので、売春に関する店の紹介や、売春代金の取りまとめなどをした場合、懲役刑を科されるおそれもあります。
さらに、14歳未満の女子を買春した場合には、暴力や脅迫の有無を問わず強姦罪として3年ないし10年の懲役刑に処され、状況によっては死刑又は無期懲役となるおそれもあります。
3.交通事故に遭わないためには
(1)中国の交通事情
中国では華南地区に限らず、どの都市・地域においても、車両、自転車、歩行者のいずれの交通マナーも大変悪いと言わざるを得ません。運転者による歩行者軽視、無理な割り込みや急発進・急停車、さらに、歩行者や自転車による信号無視、車道への急な飛び出し等は日常茶飯事です。
また、中国では法規上、規制のない交差点では赤信号でも車が右折できるほか、運転者に歩行者優先という意識が無いことから、青信号で横断歩道を渡っていても、日本人にとっては予想外の方向から車が突っ込んでくることがありますから、道路を渡る時には、青信号であっても周囲に注意を配りながら横断するようにして下さい。
(2)交通事故防止
都市部では、車両同士、車両と自転車、車両と歩行者等の接触事故が多発していますが、その主な原因は、歩行者や自転車の飛び出し、車両の急な車線変更、スピードの出し過ぎ等と考えられます。道路走行中は、歩行者の飛び出しや夜間の無灯火車両(自転車を含む)にくれぐれもご注意下さい。
また、長距離バスや高速道路上での死傷事故も多数発生しています。長距離バスや高速走行中の車内では、運転手が急ブレーキを掛けるなどしても対応できるように、たとえ短距離であっても、シートベルトを装着するとともに、できる限り居眠りせずに交通状況に注意を払うなどして、事故発生時のダメージを最小限に食い止められるよう心掛けて下さい。
なお、近年、華南地区に限らず、各地で邦人が重大・死亡事故に巻き込まれるケースが散見されます。特に地方では、幹線道路の整備に伴いスピードの出し過ぎが恒常化しており、その一方で、信号や標識等安全走行上不可欠なインフラが未整備であったり、工事中に必要な安全措置が講じられていなかったりするなどの問題があるようです。地方出張で車両を利用する際は、運転手に対し絶対スピードを出し過ぎないよう注意をし、また可能であれば専門のドライバーに運転させるよう事前に受入先に依頼しておくなど、安全対策を心掛けて下さい。
(3)万が一に備えて
なお、在留邦人が交通事故で被害に遭った場合、日中間の経済格差から、我が国で被害にあった場合に比して極めて低く不十分な賠償しか受けられないおそれがあります。さらに事故後に日本において治療を受けようと思った場合でも、中国以外での高額な治療費が賠償責任の範囲に含まれない可能性も生じます。
当然のことながら、事故の相手方が対応可能な保険に加入しておらず、賠償のための資力も十分ない場合には、期待通りの賠償を受けることができず、被害者となった邦人がやむなく自ら治療費を負担したケースもあるようです。
このように交通事故被害の賠償範囲及び賠償金額には、日中間で相当な開きがありますので、万一に備えて交通事故の被害も担保する海外旅行傷害保険に加入されることを強くお勧めします。
4.感染症について
(1)インフルエンザ(H1N1)2009
2009年4月以降、新型インフルエンザ(A/H1N1)が世界的に大流行し、中国においても多くの感染者や死者を出しました。しかし、今年に入ってからは、季節性インフルエンザと特に変わるところが見られなくなりました。そのため、今般の新型インフルエンザ(A/H1N1)については、通常の季節性インフルエンザとして取扱い、2011年4月1日以降、その名称についても「インフルエンザ(H1N1)2009」となりました。
① 現在流行しているインフルエンザについて
インフルエンザの原因となるインフルエンザウイルスは、大きく分けてA型、B型、C型の三種類があります。このうち、大きな流行を引き起こすのはA型とB型です。現在流行しているインフルエンザは、前述のインフルエンザ(H1N1)2009といわゆる香港型(A/H3N2亜型)で、2009年以前に流行していたいわゆるソ連型(A/H1N1亜型)は、ほとんど姿を消しました。
② 季節性インフルエンザに対する予防
(1)流行前のワクチン接種、(2)外出後の手洗い、(3) 適度な湿度の保持、(4) 十分な休養とバランスのとれた栄養摂取、(5) 人混みや繁華街への外出を控える、などにご注意下さい。
(2)狂犬病
① 中国における狂犬病の発生状況等
中国では、狂犬病での死亡者が毎年2千人強認められており、ここ数年状況に変化はありません。広東省も同様で、毎年3百数十名が狂犬病で亡くなっています。参考までに、汚染地域で感染し、日本で発症した人症例は、昭和45年(1970年)に1例(ネパールで感染)、平成18年(2006年)に2例(フィリピンで感染)あります。
② 狂犬病について
○感染源
主な感染源動物は以下のとおりで、約9割が犬からの感染です。
アジア、アフリカ、中近東: 犬、ネコ
米国、欧州: キツネ、アライグマ、スカンク、コウモリ、ネコ、犬
中南米: 犬、コウモリ、ネコ、マングース
○治療について
狂犬病は一旦発症すれば、効果的な治療法は無く、ほぼ100%死亡します。また、発症前に感染の有無を診断することもできません。
○対策
感染しないようにするためには、むやみに動物に近づかないことが重要です。狂犬病ウイルスを取り扱う研究機関勤務者、動物と接触する機会が多い方(獣医師等)、暴露後接種を受けるための適切な医療機関がないような地域へ行かれる方などは、暴露前接種(事前接種)が望まれます。
③ 万一犬、ネコ等に咬まれた場合
WHO暴露後処置の基準は、以下の通りです。
◎身体を触れられた。餌を与えた。傷のない皮膚をなめられた:処置必要なし
☆直接皮膚をかじられた。出血を伴わない引っ掻き傷、傷のある皮膚をなめられた:暴露後接種開始
★1カ所以上の咬傷や引っ掻き傷。粘膜をなめられた:暴露後接種開始+狂犬病免疫グロブリン(0日目)
④ 暴露後ワクチン接種について
狂犬病汚染地域で犬などに咬まれて感染した可能性がある場合に、発症を予防するためのワクチン接種のことで、出来る限り早期に接種する必要があります。
★暴露前接種を受けていない場合:
0日目(咬まれてから24時間以内)、3日目、7日目、14日目、28(30)日目、90日目(日本式、必要があれば90日目も接種→WHO式)、と合計6回のワクチン接種を行います。
☆暴露前接種を受けている場合:
最低でも2回以上の追加接種が必要です。ただ、暴露前接種が行われた時期により、暴露後接種の回数を変えるべきであるかどうかついては、現時点でも一定した見解はありません。治療が不十分だと死亡する病気ですので、暴露前接種を受けて6ヶ月以上経っている場合は、暴露前接種を受けていない場合と同様に6回追加接種を行った方が良いでしょう。
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